21時40分。
電車のドアに寄りかかって、窓の外を流れる光をぼんやり見てた。
ポケットの中でスマホがぶるっと震える。
今日もお疲れさま。
それだけ。スタンプもなし。
指が止まる。まばたきの回数が増えた気がする。
待って、これ、どういうこと。
用事はない。相談でもない。ただ、労われた。
乗り換えの階段を上がりながら、頭の中では会議が始まってる。社交辞令派と、いやこれ脈あるでしょ派が真っ向から対立してる感じ(笑)
家に着いて、風呂も入らずベッドに転がって検索する。女性からのお疲れ様ラインは脈ありなのかどうか。
出てくるのは、脈ありサイン十選、みたいな記事ばかり。読み終わっても何ひとつ確定しない。当たり前だよ、その女性のことを誰も知らないんだから。
それでAIに投げる。お疲れ様ってLINEが来たんですが脈ありですか。
返ってきた答え。好意の可能性もありますが、社交辞令の場合もあります。
はぁ…。知ってるよそんなこと。
ぼやけた問いを投げれば、ぼやけた答えが戻る。AIの性能じゃなく、こちらの渡し方の問題さ。
渡し方を変えると、この文字の意味がかなり見えてくる。
お疲れ様の一通だけでは何も判定できない
最初に土台を作っておきたい。
文字に判定材料はほとんど入ってない。乗ってる情報が少なすぎるんだよ。
意味を決めてるのは、文面じゃなくて周辺のほう。
誰が最初に口火を切ったか
これがいちばん太い手がかり。
相手から始まった会話なのか、こちらの投稿や連絡に反応する形だったのか。
用件ゼロで向こうが送信ボタンを押した。この事実だけで、他の九割の材料より重い。
逆に、こちらが今日きつかったと呟いた直後に届いたなら、優しさの範囲に収まる。
時間帯と曜日
平日の昼、業務連絡の流れで届く、お疲れ様。これは接着剤みたいな挨拶。
金曜の23時過ぎ、単独で届いたもの。話しかける口実を探してる可能性が出てくる。
時間帯は本人の生活リズムと突き合わせて考える。夜型の人の23時と、朝型の人の23時では重さが違うでしょ。
職場か、それ以外か
同僚なら文化として送ってるだけの場合がある。部署の全員に同じ挨拶を送る人、いるからね。
接点が薄い相手からの一通なら、話は変わってくる。
頻度と継続
一度きりの単発か。週に何度も届くのか。
こちらが返信しなかった翌週も届いたか。ここが分岐点になる。
返さなくても届き続けるなら、義務じゃない。
そのあと会話が伸びたか
こちらが返信したとき、向こうが会話を広げにきたかどうか。
質問を返してきた。話題を足してきた。既読だけで終わった。
この三つは、まったく別の意味を持つ。
五つ並べたけど、どれか一つで断定はできない。組み合わせでしか見えないから、次の作業が要る。
浮ついた頭を、いったん紙の上に置く
判断がぶれる原因は、期待と観測がぐちゃっと混ざってること。
書き分ければ済む話。
観測、解釈、願望に分ける
観測。相手から用件なしで届いた。時刻は22時14分。スタンプなし。今月に入って三度目。前回こちらが返信したあと、向こうから週末の予定を聞いてきた。
解釈。話しかける口実を探してるのかもしれない。あるいは誰にでも送ってるだけかも。
願望。脈ありであってほしい。というか、そうであってくれ。
この三段に分けるだけで、頭の温度がすっと下がる。
やってみるとわかるけど、観測の欄が驚くほど薄いんだよね。ほとんど解釈と願望で埋まってる。それが、判断できない理由そのもの。
過去のトーク画面をさかのぼる
その相手との過去二か月分をスクロールする。
数えるのは三つだけ。相手が先に送ってきた回数。相手からの質問の数。会話が三往復以上続いた回数。
数字にすると空気が変わるよ。
体感では毎日やりとりしてるつもりが、実際は相手発信が二回だけ、とか。逆に、たいして仲良くないと思ってた相手から十四回来てた、とか。
記憶は都合よく編集されるからね。
自分の望みも一行で
付き合いたいのか。まず二人で会えれば十分なのか。嫌われてないと確認したいだけなのか。
ここを飛ばすと、次の行動が中途半端になる。
確認したいだけなのに告白の準備を始めて自爆する人、ほんとに多い。
私のやらかしも書いておく
二十代の頃、同じ部署の人から毎晩お疲れ様が届いてた時期がある。
四日目の夜、完全に確信してた。これはいける、と。
週末に食事を誘ったら、あ、ごめんなさい、と即レス。喉の奥が急に乾いた。
後から知った。彼女、その日の当番だった。夜勤明けのメンバー全員に同じ文面を送ってたんだよ。全員に。
今思い出しても耳が熱くなる。
ミスの正体は、届いた回数だけを見て、他の全員にも届いてる可能性を確かめなかったこと。
観測が足りないまま解釈へ飛んだ。それだけの話さ。
AIに脈ありかどうかを聞かない
ここが分かれ道。
脈ありですか、と聞くと、AIは可能性の両論併記を返す。当然だよね、相手の心を読めないんだから。
聞くべきは判定じゃなくて、観測から読み取れる範囲の整理。
最初の一文で立ち位置を渡す
あなたは恋愛の相談を受けるカウンセラーです。私に同調せず、事実と推測を明確に分けてください。脈ありかどうかの断定はせず、複数の解釈を並べてください。
同調しないでください。この指定を外すと、励ましに寄った回答が来る。読んでる間だけ気分が上がって、翌朝また同じ場所に戻るやつ。
渡す材料は五点
関係。同じ会社の別部署。半年前の合同プロジェクトで知り合った。今は業務上の接点なし。
出来事。今月に入り、用件のないお疲れ様が三度届いた。時刻はいずれも22時前後。私からは一度も送っていない。
過去の傾向。トーク履歴では相手発信が過去二か月で七回、私発信が四回。相手からの質問は三回。
私の望み。二人で食事に行きたい。断られて気まずくなるのは避けたい。
制約。社内なので噂が立つ動き方は取れない。
続けて質問を三つほど。
この観測から読み取れる相手の状態を、好意的な解釈と社交的な解釈の両面から挙げてください。それぞれの根拠になった箇所も示してください。
私の解釈のうち、事実に裏づけられていない部分を指摘してください。
次に送る一通の案を三つ、それぞれ相手が答えやすい度合いと、外したときのダメージの大きさをつけて提案してください。
二つめ、地味に効く。願望が観測に化けてる箇所を淡々と刺してくる。ちょっとひやっとするけどね。
返信の温度を測る質問
関係が進むかどうかは、次の一通で決まる面がある。
私が送ろうとしているこの文章を、受け取る側の立場で読んで、返信の負担が大きい部分を指摘してください。
この返信は、盛り上げすぎと素っ気なさすぎのどちらに寄っていますか。中間の案も出してください。
ちなみに、お疲れ様への返しで一番もったいないのが、お疲れ様です、で終わる形。
会話が閉じる。相手は次に何も言えなくなる。
一行足すだけでいい。今日の出来事でも、相手への短い質問でも。
状況別、そのまま貼れる相談文
単発で一度きり届いた
一度だけ届いた挨拶から判断できることと、判断できないことを分けて説明してください。次の観測ポイントを三つ挙げてください。
毎日続いている
毎日届く挨拶が習慣によるものか、こちらへの関心によるものかを見分ける方法を提案してください。私が相手に負担をかけずに確かめられる方法に限定してください。
返信すると会話が伸びない
私の返信文を貼ります。会話が続かない原因が私の書き方にあるか、相手側の姿勢にあるか、判断材料を示してください。
食事に誘いたい
現在の関係の温度に合った誘い方を三案ください。断られても関係が保てる表現を優先してください。日程の選択肢の出し方も含めてください。
職場の相手で慎重に動きたい
社内の噂を避けながら関係を進める手順を、段階を分けて提案してください。各段階で相手の反応を確かめる基準も添えてください。
うまくいった話
27歳のTさん。半年、お疲れ様の応酬だけが続いてた。
最初にAIへ投げたのは、脈ありですか、の一行。返ってきたのは無難な両論併記。
書き直した。トーク履歴を数えて、相手発信が十九回、こちらが六回だと判明。しかも相手からの質問が十一回もあった。
入力を終えたTさん、しばらく画面を見たまま動かなかったらしい。
待ってたのは、こっちじゃなくて向こうだった。
送ったのは短い一文。前に話してた蕎麦屋、来週あたりどうですか。
返信は九分後。今も続いてる。
使うときの線引き
AIは相手の心を持ってない。渡した材料から仮説を組むだけの装置さ。
相手の実名も勤務先も写真も入れないこと。その人は、このやりとりに同意してないから。
あと、同じ相談を夜中に何度も投げるのはやめたほうがいい。毎回ちがう答えが返ってきて、迷いが濃くなるだけ。一つの相談につき三往復で切り上げる。決めるのは自分。
次の一通で決まる
お疲れ様が脈ありかどうか。この問いに、今日の時点で答えは出ない。
出るのは、相手が何回こちらから先に送ってきたのか、その回数だけ。
今夜やるのは簡単な作業。
トーク画面を二か月ぶんさかのぼって、相手発信の数を数える。それだけ。
数えた数字が、明日AIに渡す最初の材料になる。
五文字は答えじゃなく、こちらへ回ってきた順番だと思っておくといい。

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