飲み会の席で、後輩がぼやいた。
○○さんって、ほんと引きが強いですよね。
話題になってたのは同期の子。
たまたま入った店で仕事の相手と会って、そのまま案件が決まった。合コンで隣に座った人と、来月結婚するらしい。
グラスを持つ手が、少し止まった。
分かる。あの子、いつもそう。
こっちはマッチングアプリを三年やって、成果ゼロなのに。
帰り道、コンビニの明かりの下でスマホを開く。引きが強い人とは。
出てくるのは、運がいい人の特徴十選。ポジティブでいましょう、感謝を忘れずに。
うん、それ聞いた。百回くらい(笑)
AIにも投げた。引きが強い人になるにはどうすればいいですか。
返事は、行動量を増やし、前向きな姿勢を保つことがすすめられます。
はぁ…。標語だ。
抽象的に聞けば抽象的に返る。当たり前さ。
知りたいのは、あの子と自分の間にある差がどこにあるのか、でしょ。
質問を作り替えれば、そこまで降りていける。
引きが強いは、才能じゃなく回数と処理速度
運が起きる場所の数が違う
まず身も蓋もない話から。
偶然は、母数に比例する。
週に三回外食する人と、月に一回の人。前者のほうが、偶然の出会いが起きる回数は単純に多い。
誘いを八割受ける人と、二割の人。差は四倍。
引きが強いと言われている人を観察すると、たいてい母数が大きい。運がいいんじゃなくて、試行回数で押してる。
本人は無自覚なことが多いから、外からは才能に見える。
反応が速い
もうひとつの差がここ。
同じ機会に触れても、動くまでの時間が違う。
連絡先を渡された。その日のうちに送るか、三日置くか。
気になる誘いが来た。即答するか、予定を確認しますと言って忘れるか。
好機は生ものなんだよね。三日経つと、相手の側の温度も下がってる。
引きが強い人は、判断が速いというより、迷う時間が短い。
拾い方が上手い
三つめ。同じ出来事から拾う量が違う。
初対面の人と話したとき、名前と職業だけ覚えて帰る人。相手の関心事と、次につながる話題まで持ち帰る人。
後者には、あとから連絡する理由が残る。
あの人、この前ラーメンの話してたな。新しい店できたから送ってみよう。
これが偶然の再会に化ける。他人からは、たまたま連絡が来た、に見える。
恋愛でも構造は同じ
出会いの母数。反応の速さ。会話から持ち帰る情報の量。
この三つが揃うと、恋愛でも同じ現象が起きる。
逆に、いい人がいない、と言い続けている人は、たいていどこかが細い。
出会いはあるのに動かない。動くけど遅い。会っても情報を持ち帰らない。
性格の問題じゃなく、手順の問題さ。
自分の三つの数字を測る
母数を数える
直近一か月で、初対面の人と話した回数を書き出す。仕事の場も含めていい。
それと、誘いを受けた回数と、実際に行った回数。
数字にすると空気が変わるよ。
出会いがないと嘆いていた人が、実は月に十二回誘われていて、行ったのは二回だった。そういうことが起きる。
反応までの時間を記録する
連絡が来てから返すまで。誘われてから返事を出すまで。
直近の五件を思い出して、時間を書く。
遅い場合、理由も添える。忙しかった。何を書くか迷った。断りづらくて後回しにした。
三つめが多いなら、これは速度の問題じゃなく、断る技術の問題だよね。
持ち帰った情報を数える
最後に会った初対面の人を思い出して、覚えていることを書き出す。
名前、職業、住んでいる場所、好きなもの、最近の関心事、悩んでいること。
三つ以下しか出てこないなら、聞く側に回れていない可能性が高い。
自分の話をしすぎたのか、緊張して質問できなかったのか。どちらでも改善の余地がある。
私の失敗
二十代の頃、自分は運が悪いと本気で信じてた。
ある日、手帳を見返して固まった。
その三か月で断った誘いが、十七件。理由を書いてあるものもあった。疲れてた、天気が悪い、なんとなく。
行かなかった場所で起きた出来事を、こちらが知る術はない。
喉の奥が変な感じになった。運のせいにしてた時間、けっこう長かったな、と。
ただ、勘違いもしてた。全部行けばいいわけじゃない。
翌年、反動で誘いを全部受けたら、消耗して二か月ダウンした。母数を増やすのと、無差別に受けるのは別物。
自分の体力の範囲で母数を決める。ここを外すと続かないんだよ。
AIに標語を言わせない質問の作り方
精神論を禁止する
最初の一文で立ち位置と禁止事項を渡す。
あなたは行動分析の視点で相談を受けるカウンセラーです。前向きに、感謝を、といった精神論は書かないでください。私が記録した数字と出来事だけを根拠に、行動の傾向を指摘してください。
精神論は書かないでください。この指定が全部を変える。
外すと、意識を変えましょう、という言葉が並ぶ。読んで三分は前向きになる。翌日には忘れてる。
渡す材料は五つ
母数。直近一か月で初対面の人と話した回数が四回。誘いを受けた回数が九回、実際に行ったのが三回。
速度。連絡への返信は平均で半日から二日。誘いへの返事は、行く場合は当日中、断る場合は三日以上かかることが多い。
情報。最後に会った初対面の人について覚えているのは、名前と職業のみ。
私の望み。恋愛と仕事の両方で、機会が増える状態にしたい。
制約。体力に限りがある。予定を無制限に増やすことはできない。
質問はこの三つ。
私の記録から、機会を逃している箇所を三つ特定してください。数字の根拠も示してください。
断る場合の返事が遅くなる原因の候補を挙げてください。私の記述から読み取れる範囲で分析してください。
体力の範囲内で母数を増やす方法を五つ提案してください。予定を増やさずに実行できるものを優先してください。
三つめが効くよ。
外出を増やす以外の選択肢が出てくる。連絡を再開する相手のリストを作る、みたいな。
行動の点検にも使う
私が誘いを断った理由を貼ります。回避しているものの共通点を指摘してください。
私が持ち帰る情報を増やすための質問を、会話で使える形で五つ挙げてください。詰問にならない表現にしてください。
一つめ、けっこうグサッとくる。
疲れていたという理由の裏に、初対面が苦手という本音が隠れていた、みたいなことが出てくる。
場面別、そのまま使える相談文
出会いがないと感じている
私の一週間の行動を書きます。人と接触する機会が発生しうる場面を、私が見落としている分も含めて抽出してください。
チャンスが来ても動けない
私が動けなかった場面を三つ書きます。判断が止まる条件を特定してください。次に同じ場面が来たときの手順も示してください。
断り方が下手で消耗する
関係を保ったまま断る文章を三案ください。返事を先延ばしにせず、当日中に送れる短さにしてください。
会話が続かず情報を持ち帰れない
初対面の会話で使える質問を五つ挙げてください。相手が答えやすく、次につながる話題に発展しやすいものにしてください。
運がいい人と比べて落ち込む
私の記録と、比較対象について私が知っている情報を書きます。実際の差がどこにあるか、事実に基づいて整理してください。推測は推測と明示してください。
変わった例
30歳のTさん。三年、いい出会いがないと言い続けてた。
最初にAIへ投げたのは、どうすれば運が良くなりますか、の一行。返ってきたのは、行動量を増やしましょう。
書き直した。三か月ぶんの予定表を見返して、誘いの件数と参加率、返信の速度まで数えて渡した。
浮かんできたのは、予想外の数字。
参加率は六割あった。低くない。問題は返信で、行くと決めた誘いでも、返事に平均四日かかってた。
四日待たされた側は、その間に別の人を誘ってる。当たり前だよね。
変えたのは一点だけ。誘いには二十四時間以内に返す。内容は雑でいい。
三か月後、Tさんの参加件数は倍になったらしい。誘われる回数自体が増えたんだよ。
使うときの境界
AIは運を測らない。渡した記録から、抜けている箇所を並べる装置さ。
他人の実名や勤務先は入れない。比較対象になっている人も、同意していないからね。
それと、結果が出るまで何度も投げ直すのはやめたほうがいい。答えが毎回ちがって、行動が定まらなくなる。三往復で切り上げる。決めるのは自分。
引きの強さは、測れば動かせる
運がいい人は、才能を持ってるんじゃない。母数と速度と拾い方の三つで押してる。
どれも数えられるし、数えたら動かせる。
今夜やることは小さい。
直近一か月で受けた誘いの数と、実際に行った数を書き出す。それと、返事に何日かかったか。
その二つの数字が、明日AIに渡す最初の材料になる。
引きが弱いんじゃなく、まだ数えてなかっただけかもしれない。

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